雨の週末、友人とカフェでお茶をしていた時のこと。話題はいつの間にか恋バナへと移り、30代の友人が「私たちの時代は恋愛のABCだったよね」とポツリと言いました。それに対して、20代前半の後輩が「え?今はHIJKって言うんですよ」と返す場面に居合わせ、思わず時代の変化を実感してしまいました。
同じ「恋愛」という言葉で語られても、その内実は時代とともに大きく変わっている。この気づきが、私にとって非常に興味深く感じられたのです。皆さんは自分の恋愛を何かのアルファベットで表現するとしたら、どんな順番になるでしょうか?それは世間一般の「常識」と一致していますか?それとも、まったく独自のパターンでしょうか?
今日は、「恋愛のABC」から「恋愛のHIJK」へと変化した背景にある社会的な変化や価値観の多様化について、実際の体験談も交えながら深掘りしていきたいと思います。これは単なる恋愛テクニックの話ではなく、私たち日本人の関係性の築き方や親密さへの向き合い方の変遷の物語でもあるのです。
恋愛のABCとは – 懐かしの恋愛隠語の正体
「恋愛のABC」とは、1980年代から1990年代にかけて日本で流行した、恋愛の進展をアルファベットで表す隠語です。当時の若者たちが恋愛や性的な関係について話す際に使っていた言葉で、具体的には以下のように定義されていました。
- A: キス
- B: ペッティング(愛撫や前戯)
- C: セックス(挿入を伴う性行為)
友人の美香(40歳)は、この隠語について懐かしそうに語ります。「大学時代、合コン後の女子会で『昨日のデート、どこまで行った?』って聞かれて『Aまで』とか答えるの。直接的な言葉を使わなくて済むから気が楽だったのよね」
確かにこの時代、恋愛や性についてオープンに話すことは今ほど一般的ではなく、特に女性にとっては「奥手」や「慎み深さ」が美徳とされることも多かったのです。そんな社会背景の中で、ABCという隠語は若者たちにとって、デリケートな話題をカジュアルに共有できる便利なコードとして機能していました。
また、ABCの特徴は明確な「順序性」にありました。キスからスタートし、徐々に親密度を増していくという段階的な進み方が当然視されていたのです。この順序は、当時の恋愛観や道徳観を反映していると言えるでしょう。
私の高校時代(90年代後半)でも、友人たちの間で「今どこまで?」と聞かれて「まだAもしてない」などと答える光景はよくありました。それは恥ずかしさを和らげるための言葉遊びであると同時に、恋愛には「正しい順序」があるという価値観の表れでもあったのです。
HIJKの登場 – 現代恋愛の新しいアルファベット
一方、現代の若者たちの間では「HIJK」という新しい恋愛段階の表現が使われるようになりました。これは単なる言葉の入れ替えではなく、恋愛観そのものの変化を反映しているのです。
具体的には、HIJKは以下のように定義されます:
- H: エッチ(キスやペッティングを含む性的行為全般)
- I: 愛(セックス後に愛情が生まれる)
- J: ジュニア(子供が生まれる)
- K: 結婚(結婚生活全般、事実婚も含む)
「以前、職場の飲み会で若い子たちが『最初はHから入って、そのあとにI』って話してるのを聞いて、時代が変わったんだなと思ったよ」と、40代の同僚は語ります。
ABCとHIJKの最も顕著な違いは、HIJKではセックスが恋愛の最初のステップになりうる点です。これは「セックスファースト」とも呼ばれ、肉体的な相性を確かめてから感情的な繋がりを深めていくという恋愛パターンを示しています。
また、JとKの存在も注目に値します。かつては結婚が先で子供はその後というのが当然視されていましたが、HIJKでは子供(J)が結婚(K)の前にくることも想定されています。いわゆる「授かり婚」の一般化を反映した順序と言えるでしょう。
25歳の花子さんは「私の周りだと、アプリで出会ってすぐHして、そのあと気が合えばIに進むっていうパターンが多いかな。別に順番にこだわる必要はないと思う」と話します。
この変化は、デジタル化やグローバル化による価値観の多様化、避妊技術の進歩、そして何より「こうあるべき」という固定観念からの解放を示しているのかもしれません。
恋愛ABCとHIJKの時代背景と価値観の違い
ここで、ABCとHIJKが流行した時代背景や、そこに内包される価値観について、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
ABCの時代 – 恋愛の「王道」としての段階性
ABCが流行した1980年代から90年代は、日本がバブル経済に沸き、その後崩壊を経験した時代です。恋愛に関しては、まだ「男性からアプローチするもの」「女性は受け身であるべき」という従来の性別役割が色濃く残っていました。
「大学生の頃(80年代後半)、男子が女子を食事に誘って、映画を見て、手をつないで、キスして…というステップを踏むのが『王道』だったよね」と45歳の智子さんは振り返ります。「ABCという言葉には、『ちゃんとした順序で進むべき』という暗黙の了解があった気がする」
また、この時代は避妊や性感染症についての教育も今ほど充実しておらず、「責任ある性行為」という意識が強調されていました。Cに至るまでには十分な信頼関係の構築が必要とされ、それゆえに段階的なプロセスが重視されていたのです。
さらに、メディアの影響も無視できません。当時の恋愛ドラマや少女漫画では、初キスのシーンが大きなクライマックスとして描かれることが多く、若者たちの恋愛観形成に影響を与えていました。
「今思えば、雑誌の『彼と付き合って◯か月目のキス』みたいな特集に影響されていたかも」と智子さんは笑います。「そういう『正しい恋愛の進め方』みたいなものを無意識に内面化していたんだろうね」
HIJKの時代 – 多様性と個人の選択の尊重
一方、HIJKが使われる現代は、インターネットやSNSの普及により情報が溢れ、多様な価値観に触れる機会が増えた時代です。特にミレニアル世代(1980年代半ば~2000年頃生まれ)以降は、従来の性別役割や恋愛観に縛られない自由な考え方を持つ傾向があります。
「友達と恋バナするとき、みんな全然違うパターンで恋愛してて面白いよ」と24歳の大学院生・健太さんは言います。「HIJKの順番なんて気にしない人もいれば、結婚前のHは絶対ダメっていう価値観の人もいる。どっちが正しいというよりは、その人らしい選択が尊重される感じかな」
現代では、マッチングアプリやSNSを通じた出会いも一般的になり、従来の「紹介」や「学校・職場での出会い」とは異なるスピード感で関係が進展することも少なくありません。また、「セックスフレンド」や「お泊まりデート」といった概念も若者の間では珍しくなく、性的な関係と恋愛感情を必ずしも直結させない考え方も広まっています。
「HIJKの面白いところは、順序が自由なところだよね」と28歳のOL・美咲さんは語ります。「私の場合、元彼とは友達から始まって、気づいたらH→Iって感じだったけど、今の彼氏とは最初からお互い好きで付き合い始めて、その後Hに進んだの。どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、その時の自分たちに合った形があるんだなって思う」
リアルな体験談から見る恋愛観の変遷
ここからは、実際の体験談を通して、ABCとHIJKの恋愛パターンの違いや、その中で感じる喜びや悩みについて考えてみましょう。(プライバシーに配慮し、一般的な例を基にしています)
ABCの体験談 – 順序を大切にした恋愛
ナオミさん(38歳)は、大学2年生だった20年前、サークル活動を通じて知り合った先輩と交際を始めました。
「最初は普通に友達として話していて、ある日、送ってくれる途中で手をつないできたんです。すごくドキドキしたのを覚えています」とナオミさんは微笑みます。「その2週間後くらいに初めてのキス(A)があって。すごく自然な流れでした」
交際が3ヶ月ほど経ったある夜、映画鑑賞後に彼の部屋で過ごした時、ペッティング(B)まで進んだそうです。
「当時は『まだCはダメ』って思ってたんです。なんとなく『付き合って半年は待つべき』みたいな女性雑誌の影響もあったかも」と彼女は振り返ります。「彼も焦らずに私のペースを尊重してくれました」
結局、交際8ヶ月目にセックス(C)に至ったナオミさんですが、その頃には既に将来について話し合うほどの関係になっていたと言います。
「今思えば、ステップを踏むことで、お互いの気持ちや関係性を確かめる時間ができたのかもしれません。そういう意味では、ABCの順序には意味があったと思います」
ナオミさんと彼氏は大学卒業後に結婚し、今では二人の子どもの親になっています。「あの頃は『ABCの次はDEF』って冗談で言ってたけど、本当にそうなるとは思わなかったな」と彼女は笑います。
HIJKの体験談 – 現代的な恋愛のカタチ
一方、26歳のタクヤさんの体験は、まさに現代のHIJKを象徴するものでした。
「僕は3年前、マッチングアプリで知り合った女性と初デートで意気投合して、そのままホテルに行きました(H)」とタクヤさんは話します。「別に軽いノリじゃなくて、お互いすごく惹かれ合ってたんです。自然な流れでした」
彼らはその後も定期的に会い続け、セックスを重ねる中で徐々に感情的な繋がり(I)も深まっていったと言います。
「最初は正直、身体の関係だけかもって思ってたんです。でも会うたびに話が合うし、価値観も似てるって分かって。気づいたら『この人のことが好きだな』って思うようになってました」
交際して1年半が経った頃、彼女の妊娠が発覚(J)。二人は話し合いの末、結婚(K)を決意しました。
「昔なら『できちゃった婚』って後ろ指指されたかもしれないけど、今は普通じゃないですか。周りの反応も『おめでとう』って感じで、僕らも自然に受け止められました」とタクヤさんは言います。
今では1歳になる娘と3人で幸せに暮らしているタクヤさん家族。「HIJKの順番通りだったけど、それが僕らにとっては正解だったんだと思います」
混合パターンの体験談 – 多様化する恋愛の形
29歳のユミさんの体験は、ABCとHIJKが混在する現代の恋愛の多様性を示しています。
「私は2年前、友人の紹介で知り合った男性と、最初は友達として付き合っていました」とユミさんは語り始めます。「あるクリスマスパーティで二人きりになった時、お酒の勢いもあってキス(A)に至ったんです」
しかし、その後の関係は必ずしも「教科書通り」には進まなかったと言います。
「キスした後も『付き合ってる』という明確な定義はなくて、でもたまに会っては体の関係(H)を持つという曖昧な状態が続きました。正直、最初は『これって恋愛なのか、それともただの関係なのか』と混乱していました」
しかし、そうした曖昧な関係の中でも、二人の間には徐々に感情的な繋がり(I)が生まれていったそうです。
「半年くらい経った頃、彼から『ちゃんと付き合おう』と言われて。それまでの関係が逆算的に『恋愛』として定義されたような感覚でした」とユミさんは笑います。
現在、二人は結婚(K)を視野に入れて同棲中だそうです。
「私たちの場合、ABCともHIJKとも違う、独自の順序だったと思います。でも、それが自然だったし、結果的に深い関係を築けたので良かったと思っています」
ユミさんの体験は、現代の恋愛が必ずしも既存のパターンに当てはまらない多様なものになっていることを示しています。
現代の恋愛観と大切にしたいこと
ABCからHIJKへと変化した恋愛のステップからは、社会の変化や価値観の多様化が見て取れます。では、こうした変化の中で、私たちが恋愛において大切にすべきことは何でしょうか。
多様性の尊重 – 「正しい順序」はない
まず強調したいのは、ABCやHIJKはあくまで一般的なステップを表すものであり、恋愛に「正しい順序」などないということです。個人やカップルによって進み方は異なり、スキンシップのタイミングも自由です。
「友達の恋愛パターンを聞くと本当に十人十色で面白いよね」と30代の友人は言います。「Hが先の人もいれば、何年付き合っても初デートのキス以上進まない人もいる。どれが正解というわけじゃないんだよね」
重要なのは、自分とパートナーにとって心地よいペースや順序を見つけることです。社会の「当たり前」や友人の体験と比較するのではなく、二人の関係性に合った形を模索することが大切なのではないでしょうか。
コミュニケーションの重要性 – 意思確認と相互理解
特にHIJKのパターンでは、セックスが早い段階で起こることがあるため、相手の意思や価値観を確認することがより重要になります。
「最近のアプリ世代は、体の関係が早いことが多いけど、だからこそコミュニケーションが大事だと思う」と、マッチングアプリの研究をしている社会学者は指摘します。「『今日は何を期待している?』『この関係をどう捉えている?』といった会話ができるかどうかが、健全な関係を築く鍵になるでしょう」
タクヤさんの例では、妊娠をきっかけに話し合いを重ねたことで関係が深まりましたが、同意や信頼が欠けると関係が破綻するリスクもあります。どんな順序で関係が進もうとも、相互の理解と尊重が土台にあることが大切です。
時代の変化と安全性への意識
1980年代のABCは、特にDEFの部分で妊娠(D)に対する注意喚起の意味合いが含まれていましたが、現代のHIJKでは妊娠(J)が恋愛の一つの流れとして自然に受け入れられています。これは避妊具の普及や「授かり婚」の一般化によるものと言えるでしょう。
「昔は『避妊は女性の責任』みたいな風潮もあったけど、今はお互いの問題として考える人が増えたと思う」と、性教育の専門家は話します。「HIJKの時代だからこそ、HIVや性感染症への知識も含めた安全な性行為への意識が大切です」
現代では、性に関する情報へのアクセスが容易になった反面、誤った情報も溢れています。正確な知識を持ち、パートナーと率直に話し合える関係を築くことが、より重要になっているのです。
恋愛のその先にあるもの – アルファベットでは表せない関係性
最後に考えたいのは、ABCやHIJKといったアルファベットでは表現しきれない、恋愛の豊かさや奥深さについてです。
「結婚して10年経つけど、アルファベットで表せない経験の方が多いよね」と、長年連れ添うカップルは言います。「病気の時に支え合ったり、親の介護で大変な時に励まし合ったり…そういう日常の小さな積み重ねこそが、本当の意味での『親密さ』なんじゃないかな」
確かに、恋愛の進展をアルファベットで表すことには限界があります。身体的な親密さはもちろん関係の一部ですが、精神的な繋がりや日々の信頼関係の構築といった側面は、単純な段階で表すことができません。
「私たちは『L』から始まったの」と、10代の頃からの親友と結婚した女性は笑います。「Love(愛)が先にあって、そこから他のステップに進んだ感じ。何年経っても、新しいアルファベットが増えていく気がする」
彼女の言葉は、恋愛が単なるステップの積み重ねではなく、終わりのない探求のようなものであることを思い出させてくれます。
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